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見世物研究と資料―朝倉無声『見世物研究』への対し方をきっかけに

川添裕(2001年6月3日、第38回芸能史研究会大会・発表予定骨子)


 歌舞伎研究において、例えば『歌舞伎年表』(岩波書店、一九五六〜六三)に依拠するのみで、通時的な興行事実の把握や特定時点の劇界動向の研究等が、充分に熟成しえないことは、なかば常識に属することといってよいだろう。しかしながら、それに代わる総合的年表が現時点で存在するわけではなく、広範な網羅性と手軽さゆえに、依然として参照する機会の多い、価値あるレファレンスであることも事実かと思う。

 朝倉無声『見世物研究』(春陽堂、一九二八)もまた、やや似たような状況に置かれているといってよい。

 無声の『見世物研究』は、たしかにこの分野における偉大な先駆的達成であり、守屋毅氏がその復刊を熱心に推進したのも(復刊・増補・解題、郡司正勝氏序、思文閣出版、一九七七)、半世紀を経てなお同書をしのぐ総合的業績があらわれなかったからにほかならない。発表者もまた、無声の業績のさらなる発掘が必要と考え、かつて『見世物研究 姉妹篇』(編・解説、延広真治氏序、平凡社、一九九二)の出版をおこなった。

 ところが、無声の記述紹介に親しく接しつつ、同時に、一次資料の発掘・検証をおこなえばおこなうほど、いくつかの問題点も感じられ、ある意味では当然のことながら、可能なかぎり原資料に立ち返って、またさらなる原資料の発掘を試みて、あらたに考えをめぐらすことの必要を感じる。それは無声を前提に何かをつけ加えるのではなく、前提とせずに、はじめから事柄を見直す姿勢をふくむものである。

 発表者はこの間、そうした考えから幾つか個別の試みをおこなってきたが(『江戸の見世物』岩波新書、二〇〇〇ほか)、ここでは全体として、研究方法上、何がどう問題かを整理して提示してみたい。『見世物研究』の「絵画資料の問題」「文献引用の問題」「文芸・随筆と寺社記録の問題」「地方興行の問題」「興行者の問題」「記述構成の問題」などを出発点に考えてみたいと思う。それはいうまでもなく、この分野の研究方法そのものに通じる問題であり、たんに過去の優れた業績の欠を指摘しようというではなく、ポジティブな知的拡大再生産と視点の展開を意図するものなのである。

1 絵画資料の問題

2 文献引用の問題

3 文芸・随筆と寺社記録の問題

4 地方興行の問題

5 興行者の問題

6 記述構成の問題

結語

(※内容は若干、変更する場合もあります)

 


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