川添 裕
Yu Kawazoe
Waves on the Net 3
障害者とウェブ
こころWebとイネーブルウェア
日本IBMのウェブ・サイトに「こころWeb」というコーナーがある.ちょっとわかりにくい呼び名だが,これは視覚障害,肢体不自由などの身体的な障害をもったひとがコンピュータを使うためにどんな工夫や補助が必要で,現実にどんな製品が作られているかを紹介するコーナーである.
ウェブ・サイトなので,当然,ホームページの利用に関する記述に力が注がれており,「目が見えない人がWWWを利用するには」「肢体不自由の方がWWWを使うためのヒント」など,具体的な提言が記されている.
英語の言い方では近年,障害をもったひとをdisabledと呼ぶのではなく,障害をもったひとが自らの障害を乗り越えようとする局面を積極的にとらえながら婉曲的に,physically challengedまたはchallengedと呼ぶことが一般化しているが,より正面からこのdisableをenableにしようという考え方を打ちだして,障害者のためのイネーブルウェア(ENABLEWARE)に取り組んでいるのがTRONプロジェクトである.
国産OSとしてのTRONは,組み込みシステムを例外として,一般にあまり普及しなかったが,誰もがどこでもコンピュータを使う社会を想定し,そこで必ず突き当たる問題を最も真面目に考えようとしたのがこのプロジェクトで,漢字表記などの文字コードの問題を初め,障害をもったひとをサポートするイネーブルウェアなどが,そこには当然含まれていた.こちらは東大の坂村健研究室のページや,雑誌「Tronware」(パーソナルメディア社刊)などをご覧いただければと思う.
基本はまずテキスト
例えば,目が見えないひとがどうやってホームページを利用するかというと,音声の直接利用が回線容量の面からまだむずかしい現実を考えると,基本的にはLynxやBobcatなどといった系列のテキストベースのブラウザーを利用して,テキストだけから情報を得ることになる.そしてこれをコンピュータから出力するが,方法としては,音声出力による読み上げ,点字ピン・ディスプレイによる表示,点字プリンターへの出力などがある.
こうしてテキスト情報は得られるわけだが,画像やアニメーション,フレーム使用の情報などは,原則的に伝達がむずかしいことになる.その意味では,テキスト情報だけでも基本情報が得られるかどうかが,アクセスしやすいページの大事なポイントとなる(画像は,技術的にはhtmlのalt情報を記述することで画像の名称程度の情報伝達は可能だが,画像多用の「看板サイト」ほどなぜかalt情報の記述すらできていないのは,困ったものである).
上記は初歩レベルの話だが,触覚や嗅覚を含む視覚障害者のためのバーチャルリアリティの研究も,実際には行われている.こうしたアクセシビリティの考え方は,じつは,本当のハイスペックとは何かを考える際の先進的な視点のひとつでもあり,利益追求のための馬鹿げたオーバースペックや,はき違えの「マルチメディア」とは異なる,コンピュータとソフトウェアの基本仕様をめぐる思想の問題でもあるのだが,読者諸賢はいかがお考えだろうか.
付記−その後、日本IBMのホームページにはバリアフリーの扉のページも加わって、さらに情報の充実を見せている。自分のホームページがaccessibleかどうか診断できる「I-checker」のコーナーもあって実用的である。
最終更新=Sun, 19-July-1998、初稿=Mon, 10-Nov-1997
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