川添 裕
Yu Kawazoe
Waves on the Net 4
WWWと電子図書館
インターネットのWWW(World Wide Web)が史上まれにみる巨大な情報の集まりであることは,今や誰にも否定のしようがない.
もちろん,あまりに多様な情報の「秩序なき混在」である今日のインターネットは,一般的な図書館のイメージ−−出版物や情報が一定のルールで整理され,目的とするものを同定して比較的容易に取り出すことができる−−とは,程遠いものといわざるをえないが,この枠組みを利用して,例えば書籍,雑誌,新聞などの実質的コンテンツのすべてを,歴史的な蓄積までを含めて収蔵し,随意に提供・利用することができれば,人類史上空前の巨大な電子図書館が成立することになる.こうした世界規模のネットワーク型電子図書館では,いつでも,どこでも,誰でもが,いかなるコンテンツをも自由に利用が可能という,旧来の図書館にはなし得なかった究極の理想が実現するわけである.
アメリカの記憶
この種のネットワーク型の電子図書館を作ろうとする試みは,すでに現実に幾つかなされている.世界的に見てその代表格は,アメリカ議会図書館が運営するアメリカの記憶(American Memory)のプロジェクトである.これは1991年に発足した国家的事業で,アメリカ議会図書館が所蔵する歴史資料のなかから約500万点を2000年までにデジタル化して,インターネット上で自由に利用できるようにするものである.このウェブサイトでは,画像や音声などを含む相当量の資料が順次公開されつつある.
こうしたアメリカでの試みの刺激もあって,ヨーロッパやアジアの各国でも同様なプロジェクトが進められている.日本では,2002年に開館予定の国立国会図書館関西分館を電子図書館化することを中核に幾つかの「電子図書館プロジェクト」が進められる一方で,通産省の主導により,情報流通市場の形成をも視野に入れた,ネットワーク型電子図書館の共通仕様を考える試みが「次世代電子図書館システム研究開発事業」(日本情報処理開発協会)で行われている.
発想の転換が必要
ここで日米のプロジェクトを比較すると,「アメリカの記憶」がいかにもアメリカらしい公開性と,何を盛り込むかという理念先行なのに対し,日本が器と制度先行なのが容易に指摘されるが,しかし,もっと根本的な問題でいえば,両者とも既存の紙メディアの図書館を大前提にして,それをデジタル化,WWW化していくといった発想が強すぎる嫌いがある.
もちろん,既存の図書館と電子図書館の間の継承・連携はなくてはならぬのだが,インターネットの文化の側から考えるなら,それでは方向が逆であって,むしろ開放的なWWWを電子図書館化していくような自由度の高い発想の方が,今までにない魅力的な図書館を作りうるのではないかと思えるのである.これは,既存の紙媒体を単にデジタル化してウェブにのせれば,それだけで魅力的な精神の運動なのか,という反問でもある.恐らく現実には,既成の図書館をデジタル化する力学と,WWWを図書館化する力学の合わさったところに,新しいネットワーク型の電子図書館は形成されるのだろうが,それは明らかに分散型データベースであって、技術的な展望からしても,共通仕様をきちんと考えておきさえすれば,また,共通のindexさえ押さえられていれば,もはやたった一つの集権的な電子図書館や一律のゲートウェイなど必須でないことは,理解しておく必要があろう.
最終更新=Sun, 19-July-1998、初稿=Thur, 11-Dec-1997
Waves on the Netの目次へ戻る