川添 裕
Yu Kawazoe

Waves on the Net 8
SPAMって何?


この原稿は、もともと平凡社発行の雑誌『月刊百科』に「インターネットニューウェイブ」のタイトルで掲載したものです。改訂を加えてinternet versionとします。

 SPAMとは,インターネットの世界でいつのまにか定着した一種のjargon(通語)で,電子メールやネットニュースを用いて同じ内容のメッセージを無断で大量に送りつける行為を指す.電子メールによる悪質なDM,執拗な嫌がらせメール,ねずみ講的メールも同類で,こうした行為がインターネットで大きな問題となっている.

豚肉缶詰とモンティ・パイソン

 SPAMというのは元来,英米人なら誰でも知っている60年以上の歴史を持つアメリカ製ランチョンミート缶詰の商標で,sp(iced) (h)amが命名の語源とされる.正確には豚の肩肉チョップとハムが主材料のこの缶詰は,東京なら明治屋や紀ノ国屋といった類の店に昔から置かれているが,別に高級品ではなく,むしろ安価などこにでもある出来合い食品である.

 豚肉缶詰の名前が,なぜ悪質・無断・大量メール(ニュース)の代名詞になったかというと,そこに関係してくるのが,1969年にBBCで放送がはじまった寸劇シリーズ"Monty Python's Flying Circus"である.1973年まで続いたこのシリーズに「SPAM sketch」と呼ばれるSPAMが強烈にからむ一幕があり,どうやらこれが20数年を経て,両者を結びつけたのである.

 話はこんな展開だ.場所はカフェで夫婦のお客がやってくる.ウェイトレスにどんな食べ物ができるのかと聞くと,卵料理のSPAM添え,ベーコンエッグのSPAM添え……ロブスター・テルミドールのSPAM添えといった調子で,すべての料理がSPAM付き.客がSPAMのない料理はないのか! と困り果てる傍らで,周りのヴァイキングたちが「SPAM, SPAM, SPAM, SPAM, SPAM, SPAM, SPAM, SPAM…Lovely SPAM, Wonderful SPAM…」と,しつこくうるさく歌い続ける強烈な代物である.

 jargonの常で,起源を明確にはできないが,ナンセンスに押し寄せるこのSPAMの心象と,暴力的に押し寄せる悪質メール(ニュース)とが結びついたようだ.

どんな対策が必要か

 SPAMの対象になってしまった場合,発信元に抗議してもたいてい反応はないし,そもそも発信元のアドレスが偽装されていて,抗議のしようがないケースも多い.しかし,送信経路が全くわからないことはなく,IP,ドメイン名,発信アドレスの分析を基に,ゲートウェイや各種サーバーのレベルでこれをストップすることはできる.このあたりはネットワーク管理者や状況を分析できる人間が中心の仕事となる.また,はっきりしている経由地(例えば確かなプロバイダーなど)に調査を依頼することも,事情次第で可能だろう.ユーザレベルでは,根本的な解決策ではないが,メールソフトのフィルター機能を使うことも一定の効果は持つ.そもそもメールアドレスを無闇に公開しないことも必要な時代といえる.

 犯罪行為に対しては,法的手段に訴えることもあり得るし,インターネットを視野に入れたさらなる法的整備の必要も叫ばれている.しかし,筆者にはむしろ,インターネットという新しいコミュニケーション手段の社会的成熟を待つ以外にはない,という気がしてならない.もっとも困ったことに,その未成熟なところにこそ,欠点を補ってあまりある新しい可能性も秘められているのだが…….

 SPAM対策についてさらに詳しく知りたい方には,CAUCEのページをおすすめしておこう.

最終更新=Sun, 19-July-1998、初稿=Sat, 16-May-1998

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