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服部幸雄先生の『宿神論』について 重版となりました!

川添裕


 敬愛する服部幸雄先生が平成19年(2007)12月28日に帰幽されました。12月15日に船橋の病院へ家内(横山泰子)、娘とともにお見舞いにうかがい、すこしのあいだお話をしたのが最後のお別れとなりました。ここに謹んでご冥福をお祈り申し上げます。服部先生らしく最期までお考えはしっかりとしており、三十数年来の課題であった『宿神論』を、遺著として刊行することを託されました。

 その後、平成20年(2008)春より準備作業をはじめ、夏から秋にかけての編集・校正作業を経て、おかげさまで平成21年(2009)1月27日に岩波書店から刊行することができました。この宿神(しゅくじん)、後戸(うしろど)をめぐる一連の論文は、人文学諸分野で広汎な議論を巻き起こした「伝説的」な論考であり、芸能史、中世史、中世文学、建築史、宗教思想史、心性史、差別史、民俗学等々の学界での反響はもちろんのこと、たとえば中沢新一氏の『精霊の王』(講談社、平成15年 [2003])でも、あとがきで服部先生の宿神論を「画期的な論文」「すばらしい論文」と最大の評価をしています。さらに、中沢新一・松岡心平両氏による対談(『ZEAMI』03号 特集・金春禅竹の世界、平成17年 [2005])でもこれを重要な話題とするほか、小松和彦氏も「この論文は多くの研究者に衝撃を与えた論文で、私もそれをむさぼり読んだ一人であった」(『國文學』平成4年 [1992] 12月号)と記し、川村湊氏も「これは、単に能楽研究や芸能史や芸能神信仰の分野だけにとどまるものではない、日本の精神史上の画期的な”発見”といえるものだった」(『闇の摩多羅神』河出書房新社、平成20年 [2008])と記しています。なお、朝日新聞紙上にて夢枕獏氏による小説『宿神』が連載されていたのも記憶に新しいところです。

 一言でいえば、それは日本文化の根源的な世界認識を考えていく際の、その奥底や裏側にふれあう、巨大な隠れた「トポス」というべき問題であるとの理解が、学問世界、知的世界のあいだで三十数年間に拡がっていったのであり、そうしたきっかけをつくったのが服部先生のお仕事でした。最良の歌舞伎研究者にして、しかしたんなる歌舞伎研究にはとどまらず、中世の猿楽へ、芸能と芸能民の始原へ、わが文化と心性の深遠へと、対象を見つめれば見つめる程どこまでも遡らざるをえなかった先生の文化史研究のありようが、もっともよくあらわれた論文といえます。ネット上のブログにも、生前は一書にまとめられることのなかった宿神論への言及(小谷野敦氏)があらわれています。服部幸雄先生から受けたご恩、お教えはさまざまあって、いろいろと記したいことはありますが、以下に遺著となった『宿神論』の目次を掲げ、関係のあった方々、関心のある方々への案内とさせていただきます。なお、付章の「『後戸の神』をめぐる研究の諸領域―研究史の整理と展望」および主要参考文献目録は、今回が初出となる原稿です。また旧稿の各論考には、多くの補注が付されています。 (上記の文章は2008.1.18記、最終・2009.1.27修正補記)


お知らせ 刊行を機に服部先生を偲ぶ会が1月25日に催されました。先生のお仕事について語り合うとても良い会となりました。(こちらにも短文紹介)
書評紹介『日本経済新聞』「文化往来」欄にて「服部幸雄の“幻の日本文化論”を出版」のタイトルで本書の画期的意義が紹介されました(2009.2.27朝刊 こちらも参照)
重版決定! おかげさまで刊行から1カ月半で重版第2刷が決定しました。まことにありがたいことと思っています(2009.3.13)
書評紹介『朝日新聞』にて「摩多羅神、現代人を魅了」のタイトルで、こうした動向の原点としての本書が紹介されました(2009.3.28夕刊 ここで読めます)

『宿神論』の表紙

 服部幸雄『宿神論―日本芸能民信仰の研究』(岩波書店)

 

 A5判、総320頁、上製箱入
 ISBN978-4-00-023459-7 C3091
 税込価格8,925円
 平成21年(2009)1月27日発行
 岩波書店刊
 → Amazon- 宿神論


 

[目次]

第一章 後戸の神…………………………………………………………………1
  第一節 「後戸」の芸能始源説話
  第二節 後戸の猿楽
  第三節 秘神摩多羅神
  第四節 摩多羅神の属性と祭祀
  第五節 摩多羅神の図像

第二章 宿神論……………………………………………………………………27
  第一節 秦河勝の将軍神伝説
  第二節 大避大明神とその祭神
  第三節 翁面と鬼面の信仰
  第四節 渡来人秦氏と芸能民
  第五節 宿神と摩多羅神
  第六節 宿神像検討
  第七節 宿神とシュグジ・シャグジ
  第八節 シュグジ・シャグジの本質
  第九節 結語

第三章 『更級日記』の「すくう神」…………………………………………109
  第一節 問題の提起
  第二節 「すくう神」の本質
  第三節 「すくう」神資料

第四章 逆髪の宮…………………………………………………………………121
  第一節 逆髪姫君
  第二節 逆髪による復活・再生の劇
  第三節 逆髪の宮登場
  第四節 謡曲「蝉丸」における逆髪の形象化
  第五節 舞楽「抜頭」と逆髪
  第六節 蝉丸信仰の基本的構造
  第七節 母子御霊の信仰
  第八節 辺境の女神
  第九節 道祖神信仰と放浪芸能民
  第十節 結語
  
以上の第一章から第四章には、初出にはなかった補注等が付されています

付章 「後戸の神」をめぐる研究の諸領域―研究史の整理と展望…………237
  はじめに
  第一節 「後戸」の成立とその概念
  第二節 「後戸」の観念と機能をめぐって
  
この章は新稿です(400字約80枚分)

「後戸の神」「宿神論」関係主要参考文献目録………………………………275
  
この項は新稿です(14ページ分)

参考図版……………………………………………………………………………289

初出一覧……………………………………………………………………………301

後記………………………………………………………………(川添裕)……303

 

 →→岩波書店の紹介
 →→岩波書店の詳しい紹介ページへ(後記の一部[1/5]、著者紹介、目次が掲載)
 →→岩波書店の立ち読みコーナーへ(第一章が立ち読みできます)

 


参考:服部幸雄先生の本をWebcat Plusで探す    服部幸雄先生の本をAmazonで探す


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